おひさま堂年代記 ~豆と笑いの冒険譚~

連載読みもの

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ここに記されしは、「おひさま堂」という名の小さき珈琲屋が誕生するまで、そしてその後に歩んだ数々の旅の記録である。 剣も魔法も出てこない──代わりに現れるのは、豆を煎る炉の唸り、街道沿いの奇妙な出会い、そして時折やってくる病や災いの魔物たち。

これは壮大な英雄譚でもなく、国を救う大冒険でもない。 けれど、日々の営みの中で笑い、時に頭を抱え、それでも前へ進む──そんな騒動と奮闘の年代記だ。

どうか気楽に読み進められよ。 読み終えた時、ほんの少しでも笑みがこぼれ、心に一杯の温かい珈琲が満たされることを願いつつ、豆屋の女房が記せし戯言と思われたし。

   

🏰 第6章:北方移住と城づくりの試練 ― 契約破棄と謝罪のクエスト ―

那須高原への移住を決めた勇者と賢者にとって、次なるクエストは「城を建てること」であった。 もっとも、これは初めての試みではない。かつて王都・川崎の地にて、名だたる大手建築ギルドの手により、一度城を築いた経験がある。

その出来栄えは見事なものであった。壁は狂わず、屋根は鳴かず、堅牢そのもの……と思われたが、10年後に露見した洗濯機パンの下に隠された穴、そして工程が進むと代わる担当者等々。

そこには、どこか“距離”があった。「一緒に作り上げる」というよりは、「規定に合わせて作られた」という感覚。

今回の旅では同じ轍を踏んではならない。
勇者と賢者は、共に城を築くだけでなく、長きにわたって付き合える仲間を求めていた。

しかし、現実はそう甘くはない。王都で探せば「那須?遠すぎる」と断られ、那須の展示場を巡れば「これは違う」と首をかしげる。
八方ふさがりとは、まさにこのこと。

ようやく一社、条件に合う建築ギルドが見つかった。
店舗併設という難題にはやや不安が残るものの、担当者は誠実で、こちらに寄り添ってくれる。
「ここにお願いしようか」
完全ではないが、納得はできる。そうして、契約はほぼ決まりかけていた。

――そのときである。

賢者がぽつりと言った。「……あと一社だけ、見てみたい」
勇者は内心思った。(いや、もう充分見たではないか)
だが、この一言には妙な重みがあった。


数日後。
二人は、ふと目に留まった那須高原の建築ギルドを訪ねることにした。

当然ながら、アポなしである。 時刻は夕刻。山へ続く道を進みながら、目を凝らして看板を探す。
「このあたりのはずなんだけどな……」
だが、見つからない。あるはずのものが、なぜか見えない。 しばらく探した末、あきらめて引き返すことにした。

――そのとき。

Uターンして戻る途中、さきほど通ったはずの場所に、堂々と掲げられた看板が現れた。
「……あった」
いや、正確には「最初からあった」のだ。それなのになぜ見えなかったのか。夫婦で顔を見合わせる。
「……おかしいわね」
不思議な違和感を抱えたまま、二人はその扉を開いた。


出迎えたのは、ひとりのスタッフ。事情を話すと、申し訳なさそうに言った。

「社長は外出中でして、本日は対応が難しいかと……」

――当然である。むしろ、対応してもらえる方が不思議だ。
「では、また改めます」
そう言って引き返そうとした、その瞬間。扉が開いた! そして、社長が戻ってきたのである。まるで、こちらの来訪を知っていたかのように。


現れたのは、若きギルド長。 その語りは静かだが、暑かった。

  • 建物に対する情熱。
  • 設計へのこだわり。
  • 施工への誇り。
どの言葉にも、一切の妥協がない。気がつけば、勇者と賢者は引き込まれていた。
「……これだな」「……これだね」
どちらからともなく、そう口にした。それは理屈ではなく、確信だった。


そして数日後。二人は菓子折りを携え、あの誠実な担当者のもとを訪れていた。
「このたびは……大変申し訳ありません」
これは、戦いではない。だが、勇者にとってはなかなかに堪えるクエストである。

(できれば避けたかった戦闘だな……)

しかし、誠実に向き合うしかない。それが、自ら選んだ道なのだから。


こうして、新たな建築ギルドとの契約が結ばれた。
あの看板、あのタイミング、あの出会い。
これらもまた、すべてが、どこか“導かれていた”ようにも思える。

――だが、ひとつだけ確かなことがある。
それは、勇者と賢者が自分たちで選んだ決断であったということ
城づくりの物語は、ここからが本番である。
そして夫婦の試練も、まだまだ続くのである……。


次回予告

すでに決まっていたはずの拠点――80坪の土地。
王都では充分すぎる広さのはずが、北の大地ではまさかの評価。
「たったの80坪……それは土地とは言わん」
次々と浴びせられる、想定外の常識。 勇者と賢者は、己の“基準”が通じぬ世界に立たされる。
この地に城は築けるのか? それとも、新たな大地を求めるべきか――。

次回、「第7章:80坪は土地じゃない?! 新たな土地探しに奔走」

常識崩壊の地で、勇者の決断が試される。
4月10日(金)公開予定 お楽しみに!