おひさま堂年代記 ~豆と笑いの冒険譚~

連載読みもの

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ここに記されしは、「おひさま堂」という名の小さき珈琲屋が誕生するまで、そしてその後に歩んだ数々の旅の記録である。 剣も魔法も出てこない──代わりに現れるのは、豆を煎る炉の唸り、街道沿いの奇妙な出会い、そして時折やってくる病や災いの魔物たち。

これは壮大な英雄譚でもなく、国を救う大冒険でもない。 けれど、日々の営みの中で笑い、時に頭を抱え、それでも前へ進む──そんな騒動と奮闘の年代記だ。

どうか気楽に読み進められよ。 読み終えた時、ほんの少しでも笑みがこぼれ、心に一杯の温かい珈琲が満たされることを願いつつ、豆屋の女房が記せし戯言と思われたし。

   

🏰 第7章:80坪は土地にあらず?! ― 新たな土地探しに奔走 ―

那須高原に拠点を構える。

そう決めた勇者と賢者が、まず手にしていたのは先々代より受け継いだ80坪の土地であった。
王都・川崎であれば、そこそこの城は建つ。庭だって、無理をすれば作れる。充分ではないか……。そう思っていた。
だが、北の大地は違った。

「80坪?それは……土地とは言わんね」

出会う人、出会う人、口を揃えてそう言う。土地ではない?!
では、あれは何なのだ。勇者と賢者はしばし考えた。

(……敷地?)

いや、違う。どうやらこの地では、それは **“気持ち程度の場所”** らしい。

こうして、勇者たちは新たな土地探しの旅へと出る。
まずは管理会社に頼み込み、候補地をいくつも紹介してもらった。その中には、500坪を超える土地もあった。

「こちらなど、いかがでしょう?」

広い。とにかく広い。端から端まで歩くのに、少し覚悟がいる。

「……無理、無理!」

勇者は即座に白旗を上げた。賢者も深くうなずく。
当時の二人にとって、500坪は“土地”ではなく、もはや領地であった。
(今なら考えるかもしれないが、そのときは完全に無理だった)

その後も、いくつもの土地を見て回った。
見ては検討し、検討しては断り、断ってはまた探す。
このループである。「ここだ!」という場所には、なかなか出会えない。勇者と賢者は、次第に“土地探し疲れ”という状態に陥っていた。


そんな中、例の建築ギルドの社長にも、「どこか良い土地があれば」と頼んでいた。だが、なかなか話は来ない。

――そんなある日。場所は、勇者の送別会の席である。

杯を交わし、別れを惜しむその最中、一本の電話が入った。社長からだ。
「良い土地があるのですが、見に来ませんか?」
続けてこう言った。
「もしお宅が買わなければ、私が買おうと思っています」
勇者は思った。

(それはつまり……かなり良い土地だな)

話を聞けば、良い土地というものは市場にはなかなか出てこない。出る前に、誰かが買ってしまうのだという。
――なるほど。勇者はグラスを置いた。「明日行きます!」即答である。

この判断は、後に賢者からの大絶賛を受けることになる。


翌日。

案内されたその土地は、それまで見てきたどの場所とも違っていた。
敷地の端には小川が流れ、南には水田が広がる。
別荘地として整備されつつも、すでに定住者もいる。
孤立しているわけでもなく、かといって騒がしくもない。

静かで、ちょうどよい距離感。

そして――広さ、200坪。多すぎず、少なすぎず。ちょうどいい。あまりにも、ちょうどいい。

しかもこの土地、建築ギルドの事務所からわずか200メートル。
売り出し前の物件で、下草刈りをしていた業者が社長の知り合い。

たまたま社長が外に出て、
たまたまそれを見かけ、
たまたま話を聞いた。

――そして、勇者に連絡が来た。

偶然にしては、出来すぎている。

「……これだな」

勇者は、ほぼ迷わず言った。賢者も異論はない。というより、もう決まっていた。

これは検討ではない。“出会い”である。

その翌日、契約は成立した。

早い。とにかく早い。
もはや、ひとめぼれからの0日婚である。


こうして、勇者と賢者は商いの拠点となる土地を手に入れた。終の棲家になるかもしれぬ場所。
それは、広さでも価格でもなく、不思議な流れの中で選ばれた土地であった。

後に社長はこう言った。「決まるときは、こんな風に決まるものですよ」
その言葉を聞きながら、勇者と賢者はひとつの言葉を噛みしめていた。

――縁。

古時計のときもそうだった。そして今回も。
どうやら私たち夫婦の旅は、“出会うべきものに出会う”ようにできているらしい。


次回予告

ついに建設地も決まり、無事に地鎮祭を迎えた勇者と賢者。これでひと安心――のはずだった。
だがその直後、川崎の住まいがまさかの早期売却。しかも退去期限は、わずか3週間。

新居はまだ影も形もない。
さて、文字通りの”Home Less”となった夫婦が、次に住む場所はどこだ?

次回、「祝!地鎮祭 だが、住むところがなくなった…」

またしても、勇者の決断が試される…。4月17日(金)公開予定 お楽しみに!